「あら、辻田さん、こんばんは」
「……チッ」

 冬の刺すような冷たい風の吹く金曜の夜。コンビニ帰りの道でご近所さんに会った。適当で雑な服装で出てきても、冬はコートで全部隠れてしまうから良い。
 彼はここで会ったのが予想外だったのか不機嫌で気まずそうな顔で視線を逸らした。

「辻田さん、寒そうですね」

 コートにマフラー、足元はもこもこの靴下を靴の中に押し込んだ私の格好とは対照的に辻田さんは冬でも薄着だ。
 私の言葉に彼は「寒くない」と短く答えた。それが彼にとって本当なのかそれとも強がりなのか、私には分からなかった。
 はぁ、と吐いた私の息は白く、しばらく空中に漂ったあと溶ける。

「あっ、私今コンビニ行ってきた帰りなんですけど、なんと……じゃじゃーん! 肉まんがあるんです!」

 手に持った袋をガサガサと漁って紙袋に入れられた肉まんを取り出す。袋のテープを剥がして口を開け、中の丸い肉まんを真ん中でふたつに割った。白い湯気と良い匂いがが夜の空気に立ち上っていく。

「半分どうぞ」
「いらん」

 半分に割った肉まんの片方を、ずいと辻田さんに差し出したけれども、にべなく断られる。彼は顔を背けたままそっけない。

「貴様が食うために買ってきたんだろうが」
「まぁそうですけど……。でも私は他にもポテチとかプリンとか色々買っちゃったんで」

 そう言って片手に持ったパンパンの袋をちょっと掲げて見せると、彼はそれを見て引いた表情をした。

「買いすぎだろ」
「ちょっと反省しています」

 深夜のコンビニで買う量を逸脱している自覚はある。けれどもついでにお酒を買って、新商品のスナック菓子を買って、期間限定のコンビニスイーツも買って……としているうちに、いっぱいになってしまった。とても一晩にひとりで食べる量ではない。

「まぁまぁ」

 彼を宥める言葉を掛けると、彼がキッとこちらを睨む。けれども、私はもうそんな視線ひとつで怯んだりはしない。これは、彼が本気で怒ったりしていないことを私はもう知っている。

「そんなわけですから、辻田さんが半分食べてくれると嬉しいんです。それに――」

 にっこり笑って言う。嘘じゃない。憐憫でも慈悲でもない。うっかり買いすぎてしまったことは本当だけれども。
 ――きっと、私は彼と何かを分け合う経験がしたいのだ。

「半分こして食べる肉まんはおいしいですよ?」

 彼の瞳がまあるく見開かれたあと、何故だかひどく眩しそうに細められた。

2021.12.29