「マナーくん、買い物に行くわよ!」
「えっ」

 ロナルド吸血鬼退治事務所のドアを開けたマナーくんの腕を取って外に連れ出す。やってきたばかりなのにお茶を飲む暇もなく申し訳ないが、買い出しには人手がいるのだ。
 彼は突然連れ出されたことに驚いた表情で、私が掴んでいる腕のあたりをじっと瞬きもせずに見つめている。驚きからか、彼の頬がかすかに赤い。逃げられないよう、腕を掴む力を強くしつつ、経緯を説明する。

「あのね、急なんだけどパーティーすることになって」
「パーティー? 今日って何かの日だっけ?」
「ううん、何でもない日だけど、パーティーとかしたいなって言ったらドラルクさんが乗ってくれて!」

 暇だったのでロナルド吸血鬼退治事務所に顔を出すと、ちょうどショットさんと武々夫さんもいて、何か派手なことをしたいねという話になってパーティーを開くことになった。「なんで?」とマナーくんが聞くが、細かいところは私も分からない。自然と話の流れがそうなっていたとしか。

「マナーくんも呼ぼうと思ったところだったからちょうど良かった!」
「……俺が素直に従うと思ったか〜! 手伝いなんてサボってやる〜〜」
「やっぱり荷物持ちは嫌? そしたらサテツさんを呼んで――」
「いや、やっぱ俺が付き合うし!!」

 スマホを取り出しかけた手を掴んで止められる。思いの外、強い力に今度は私が驚いて、掴まれた手首を見つめる番だった。

「そう? 確かにサテツさん呼んだら料理全部食べられちゃうもんね」

 サテツさんは力持ちで買い出しにはぴったりかもしれないけれど、パーティーにはあまり呼びたくない人物だ。私もドラルクさんの料理を堪能したい。
 スマホを鞄に戻すと、まだ警戒しているのか、再びその手をマナーくんに握られる。

「じゃあさっさと買い出し終わらせちゃおう! まずは百均でパーティーの飾り付けを買ったあと、ドラルクさんに指示された食材をスーパーに買いに行くよ」

 私たちの買い物が終わらなければパーティーが始められないのだ。

「カゴに変なもの沢山入れたりしないでね」

 そう笑って釘をさすと彼がびくりと肩を震わせた。図星らしい。その様子に私はさらに笑う。
 パーティー自体も楽しみだけれど、準備の買い出しも楽しくなって、上機嫌のままに腕を大きく振って歩く。繋がれたままだった彼の手も一緒に引っ張られた。

「ちょっと!」
「あはは」

 ブンブンと大きく振ってもマナーくんは私の手を握ったままだったから、それが何だか嬉しかった。
 駅前の百均までの道のりはまだ長い。空は晴れて星が私たちの上で静かに瞬いていた。

2022.09.24