「あ、へんなじゃん」

 すっかり見慣れたピンク色の象を見かけて声を掛ける。

「何してるの、こんなところで」

 振り返った彼は私を見とめると、にこにこ笑顔でこちらに寄ってきた。

「こんばんは。今夜もゴイスーエッチで素敵な服ですね」
「セクハラ!」

 私のチョップが彼の脳天に直撃する。やわらかい彼の体に手がめり込むのは、へんなのすべすべした肌がちょっと気持ち良い。

「一言余計! そこは普通に素敵な服ですねでいいでしょ!?」

 一瞬自分服を確認してしまったけれど別に露出が高かったりエッチな服は着ていない。そもそもこいつは服を着ていたって着てなくたってエッチだなんだ言うやつなのだから、発言を真に受けるだけ無駄だ。

「そちらこそこんな夜にどちらへ?」
「私はコンビニ〜」

 期間限定のスイーツがおいしいという情報を得て、深夜のコンビニに繰り出したというわけだ。深夜のコンビニスイーツほど魅惑的なものはない。

「では私もエッチブックを探しにコンビニまでお供しましょう」
「アンタは何買うとか言わなくていいから!」

 こんなやつだけどコンビニまでの話相手が出来たのはありがたい。「そういえばさぁ、今朝のことなんだけど」と話しかけると、彼はピンクチラシを辿ってジグザグに歩いていた。元気だなぁ。
 お供といってもコンビニはすぐ近くなわけで。
 コンビニに着くとロナルド吸血鬼退治事務所一行と鉢合わせた。

「おふたりさん、こんな深夜にデートかね」
「デートなわけあるか」

 何をどう見たらデートになるのか。そもそも深夜のコンビニに行くのはデートとは言わない。
 彼らも皆で深夜のコンビニに買い出しかと思ったけれど、ロナルドは退治人服だった。

「へんな、こいつを守ってくれてたんだな」

 ロナルドの言葉に「どういうこと?」と聞けば、先ほど近くで吸血鬼騒ぎがあったばかりだという。
 そんな中、私は呑気にコンビニスイーツを買いにきてしまったわけなのだが。

「守るって、へんなが?」

 彼の方を見ると、いつものようににこにこと笑ってぱおーんと鳴いている。もう一度言う。

「へんなが?」
「いや、こいつもいいヤツだし、結構紳士的なところあるし、そうじゃないかな〜と俺は思ったんだけど……」

 この歩くセクハラが紳士的だとしたら全人類紳士的でしょ。……まぁ、友達思いってとこは同意してもいい。けど。

「いや、絶対エロ本買いに来ただけでしょ」
「あれぇ〜?」

 成人指定のコーナーで楽しそうに立ち読みしている彼の姿からは女性を守るとか考えているようにはとても見えない。

「ま、今日はそういうことにしといてあげてもいいけど」

 今夜の私は機嫌が良いのだ。

2021.10.28