「フハハハハ、彼女は眠らせてもらった! 私の能力で眠った者は、王子様のキッスでしか目覚めないのだ!」
「キキキキッス!?」
「また今回は随分とトンチキ吸血鬼が出たな」
「その瞬間を見るのが私の一番の楽しみ――なのだが、分が悪いので今日は逃げる! 良いキッスを!」
「おいコラ、テメー待て!!」
どうやら、私は先程現れた吸血鬼の能力で眠らされてしまったらしい。
――厳密に言うと、私は眠っていなかった。あの吸血鬼は私が眠っていると言ったが、意識がある。意識はあるけれども、瞼は開けられないし、体も動かすことが出来ない。金縛りのような感じだ。苦しくはないし、どちらかというと目が覚める直前の感覚に似ているというか。
「キスでしか目覚めないのなら仕方ない、ここは私が」
「おい、テメー何勝手に決めてんだ!」
何やら私の上でふたりが揉めている声が聞こえる……。
キスでしか目覚めないなんて、何だその能力! その催眠をかけた吸血鬼は逃げてしまったし、安全に催眠を解く方法は今現状それしかないのは分かるけれども!
「そそそそりゃ彼女に決めてもらう、とか……」
「寝ている人間にどうやって聞くのかね」
意識はあるんですけどね!
けれども、私がそれを彼らに伝える術はない。
「ロナルドくん、下がりたまえ。君にはまだ早い」
「早いもクソもあるか! テメーは彼女に、その、アノ、あれだ! 相応しくねーんだよ!」
「じゃあ君ならその資格があるというのかね!?」
どっちもその資格ないですけど。私はどちらとも付き合っていないし!? 私の意思も関係なくチューされるなんて!
こういうのは童話みたいにもっともっとロマンチックに――
「ヌッヌ!」
そのとき、ひどく近くでジョンくんの声が聞こえたかと思うと、唇の端に何かが触れた。
途端に体が軽くなり、動かせるようになった。瞼を開けると、視界いっぱいにジョンくんの顔。
すぐにジョンくんが私を起こしてくれたのだと分かった。しかも気を遣って唇の端に。なんてやさしい……。
「ジョンくん〜! ありがとう、助かったよ〜!」
「ヌー!」
がばりと起き上がり、ジョンくんを抱き抱える。お腹に顔を埋めるとパンのような良い匂いがした。私の頭を小さい手でわしゃわしゃと撫でてくれるのが愛らしい。
「あー……」
視界の端には何やらがっくり肩を落としているロナルドさんとドラルクさんの姿が見えた。
2022.01.20