「楽しかったですねぇ!」

 花火大会の帰り道、興奮の残る声で言う。隣を歩くドラルクさんとジョンくんがこちらを振り返る。
 次々と夜空に打ち上がる花火を見るとテンションが上がった。赤緑黄色、綺麗な丸だったり、枝垂れ型だったり、ハート型なんかもあった。次々と打ち上がる花火を夢中で見ていたら、首が痛くなってしまったくらいだった。
 楽しくて楽しくて、このまま帰ってしまうのがもったいないくらいだった。

「じゃあ、延長戦、するかい?」

 そう言ってドラルクさんはマントの内側から手持ち花火のセットをチラリと取り出してみせた。



「屋上でこんなことしちゃって怒られないんですか?」
「大丈夫、だいじょーぶ。倒壊したときも何も言われなかったし」

 水の入ったバケツや花火用ろうそくなどの荷物を置きながらドラルクさんに尋ねると、彼は笑いながら答える。まぁこのビルには床下に部屋も作っているくらいだから屋上で花火をするくらい小さなことなのだろう。ジョンくんはその間もテキパキと準備を進めていく。まぁ彼らが大丈夫と言うのだからきっと大丈夫なのだろう。火の始末だけは気を付けることにして、私も準備を手伝った。
 退治人や吸対の面々はパトロールを兼ねて祭り会場にもう少し残った。だから、この屋上の花火大会二次会会場にやってきたのは、私とドラルクさんとジョンくんだけ。

「まずは、定番のススキ花火から」

 そう言ってドラルクさんが花火を私とジョンくんに手渡す。手持ち花火と言われてイメージする花火そのものの形をしている。先端に巻き付けられた髪がカラフルでかわいい。手持ち花火なんて久しくやっていなかったから、何だか新鮮な気持ちになる。
 ジョンくんに続いて、花火の先をろうそくの炎に近付けると、ヂヂと小さく引火の音がした。

「わぁ、綺麗!」
「ヌー!」

 私とジョンくんの花火から明るい光が溢れていく。ひとのいない方に花火の先端を向けて、軽く振ってみる。きらきらと光のシャワーが揺れる。

「ドラルクさん、見てください!」
「そんな心配しなくても、ちゃんと見ているよ」

 振り返ると、ドラルクさんは眩しそうに目を細めていた。シューと勢いよく出てくる火花は、電気がいらないくらい明るい。
 ジョンくんの花火と火花を交差させながら遊んでいると、シューという音が急に小さくなって消えた。明かりも頭上に輝く満月だけになってしまったけれど、不思議と怖くはなかった。

「次はドラルクさんも一緒にやりましょうよ」
「えっ、いや、私はいいよ。ちょっと、待って……!」

 遠慮するドラルクさんの手に花火を持たせ、腕を引っ張って火のところへ連れて行く。無理矢理腕を引いても砂にならなかったのは運が良かった。ジョンくんが彼の足を押して手伝ってくれる。
 彼の手のひらを握って、後ろから操るようにして花火の先端をろうそくに近づける。彼の細い手首は、私の指でも簡単に一周出来てしまいそうだった。

「あ、付いた」

 再び花火のシューという音と明かりが辺りを満たす。言いながらこちらを振り返ったドラルクさんの無邪気な笑顔を、真正面から食らってしまい、思わず一歩後ずさった。完全な不意打ちで、心臓がバクバクと鳴っている。

「綺麗だし、自分で持ってやるとやっぱり楽しいねぇ」

 もしかしたらドラルクさんは花火の勢いの反作用で死んでしまう可能性を考えないわけでもなかったけれど、どうやらその心配は必要なかったようだ。彼はひどく楽しそうにくるくると花火を回している。

「まだまだ沢山あるから景気良く行こう!」

 ドラルクさんの言葉に、ジョンくんが片手に三本ずつ、計六本の花火を構える。私もそれに倣って、袋の中から束にして取り出す。ポーズを決めると、ドラルクさんが口を開けて大きく笑った。

2022.09.07