「ドラルクさん好き!」
「ふふ、ありがとう」
「ドラルクさんは?」
「私も同じ気持ちだよ」
「……そうじゃなくてっ!」

 そう言って私は彼の前で膝をついた。私だって、何も意味なくいちゃついているわけではない。いや、ドラルクさんとは恋人同士なのだから意味なくいちゃついてもいいのだけれど、私には目的があった。
 ドラルクさんに『好き』と言わせたい。
 ある日私はふと気が付いたのだ。彼から好きと言われたことがないことに。告白したのは私から。彼が私の気持ちを受け入れて、大切にしてくれているのは分かる。でもそれを言葉にしてほしい。それを望むのは決して“欲張り”ではないだろう。

「ぐっ……」

 今回も作戦失敗してしまった。作戦といってもどうしたら良いか名案が浮かばなかったので、大体ストレートに私の想いを伝えるだけだ。そのやりとりの中で彼が『好き』と返すのを待つだけ。作戦も何もあったものではない。
 これで何度目だろう。こう何度も上手くいかないと、何か理由があるのではないかと勘ぐってしまう。
 じっと見つめると、彼が私の視線に気付いて目が合った。

「ふ、はは!」

 いつものツンと澄ました表情が崩して、彼が笑い声を上げる。大きく開けた口は彼の牙まで見えている。

「そんなに思い詰めなくてもいいだろうに!」

 ぽかんとしている私の頭を、彼の手がポンポンと撫でる。そのまま私の腕を引いて、ソファの前まで連れていくと、そのまま自分の隣に座らせた。

「想いを伝えてくれるのが嬉しくてね。君が私の言葉を待っているのは分かったけれど、つい意地悪をしてしまったよ」

 そう言って彼が小さく笑う。その頬はかすかに赤くなっているように見えた。

「えっ、意地悪!?」
「ごめんごめん」

 ずっと揶揄われていたことにようやく気付く。彼の手のひらが宥めるように、私の背中をとんとんと叩く。

「あまりにも君がかわいくて。でも、君には代わりの言葉や態度で気持ちを伝えていたつもりだったんだけど。足りなかった?」

 確かに彼は『好き』以外の言葉を使って気持ちを伝えてくれていたし、彼の手のひらはいつだって私にやさしく触れてくれていた。それが全く分からなかったとは言わない。言わないけれど――

「……た、足りませんでした」

 ほんの意趣返しのつもりだった。彼が意地悪していたと言うのだから、私だって少しくらい我儘を言ってもいいのではないかと。
 小さな声で伝えた言葉に、彼は一瞬意外そうに目を丸くさせたが、すぐににんまりと楽しそうな笑顔を作る。
 不意に彼が顔を近付け、私の耳に唇を寄せた。

「“好き”だよ」

 彼の言葉が私の耳朶をくすぐる。耳元で囁かれ、カッと体が熱くなるのが分かった。

「これで満足したかい?」

 そう言って彼が私の頬に手を添える。こくこくと必死で首を縦に振る私を見て、彼はまた満足そうに笑った。

2022.08.03